WordPress 生誕10周年だそうです。WWW が生誕20周年らしい(諸説ありますが)ので、その歴史の半分くらいのところで WordPress がもうあったんですね。
さて、東京の WordPress 10周年イベントで、Nao さんが WordPress 日本語版の歴史的なお話をされるとのことで、日本語チームの一人である私にもコメントを求められました。記憶とたぐってお返事したのですが、そのあとちょっと調べてみたら意外と面白かったので、ここに書いてみます。
WordPress 日本語版
私が WordPress を使い始めたのは 2006年の初めでした。それは日本語化されたもので WordPress ME と呼ばれていました。配布サイトがあってフォーラムがあって、日本語での WordPress 情報が集まっていました。
一方、その頃にはもうひとつの日本語版が存在していました。2005年頭には WordPress 1.5 の日本語リソースが出されています。
WordPress ME は 2008年に開発が終了してサイトは閉じられ、いまでは記録が残っていないのでここでは詳しく書けません。その後は、そのもう一方の日本語版が現在の WordPress 日本語版につながっていきます。
私が翻訳チームに加わるまで
日本語リソースは 1.5 以降、svn.automattic.com/wordpress-i18n/ja/tags/ にあります。
このリポジトリは最初、tai さんがたぶんひとりで、WordPress の開発元 automattic に交渉して開設されたのだと思います。まだ私が関わる前なので詳しいことは知りません。
さて、そのなかの ja.po のコメントにその歴史が見えます。ここで一番古い 1.5 の ja.po のコメントでは tai さんひとりのクレジットで、作成日は 2005年3月4日です。2005年末の、次のバージョン 2.0 の ja.po では tai さんのほかに 2人の協力者のお名前が見えます。
2006年7月の 2.0.3 の ja.po のコメントには
# 誤字脱字誤訳、あるいはよりよい訳などありましたら以下までぜひお知らせください。
# また、翻訳、校正、コミットをお手伝いしていただける方も随時募集中です。
# 連絡先: ....(個人のメールアドレス)
という文言が見えます。「連絡先」は個人のメールアドレスだったのが、2.1.1 の ja.po から翻訳チームのメールアドレスになっています。徐々に態勢が整えられていったようです。
はじめ WordPress ME を使っていた私は、いくつか日本語訳のおかしな所に気づいたのですが、開発者の連絡先というか、どのように要望を伝えればいいのかが(フォーラムなど充実していたにも関わらず)とてもわかりにくかったと記憶しています。またこの頃にこのもう一方の日本語版の存在に気づいて試してみていましたが、こちらにもやはり日本語訳の気になるところがありました。そこで日本語リソースを見てみて、上記の案内を見つけました。どうやらこちらの日本語版のほうが「風通し」がよさそうなので、連絡してみることにしました。ところが、翻訳チームのメーリングリストのアーカイブも公開されていたのでそれを覗いてみたら、私の報告について「そんな細かいこと、どうでもいいじゃんね。ぷ」みたいな話になっていて、がっかりしたことを覚えています。
しばらくは自分で自分のところだけ対処していたのですが、上記の案内に「お手伝いしていただける方も随時募集中」とあるし、外から報告や提案してやきもきしているよりは気が楽かなくらいの気持ちで、今度はチームに参加したいと連絡してみました。2007年3月のことでした。2.1.3 の ja.po には私の名前 Mako が見えます[]。
日本語作成チーム
ここからは手元にいくらか記録も残っていますので、少し詳しく書くことができるでしょう。
その頃は、ja.po のほかにも翻訳文を直接埋め込まなければならないファイルがいくつもあって、svn を使って各人がリポジトリにアクセスし、メーリングリストで「私がこのファイルの翻訳を担当します」と宣言して作業し、また「校正おねがいします」とあると別の人がチェックする、というような態勢でした。
私は、どうにも気になる質のようで、用字用語や点丸括弧ばかりチェックしていました。ひらがなで書くのか漢字なのか、括弧やコロンは全角なのか半角なのか、全角と半角のあいだにスペースは入れるのか……。調べているうちに「日本語スタイルガイド」のひな型を見つけたので自分のブログにそのことを書きました。このひな型を元に、翻訳チームの日本語スタイルを決めていくことになりました。このようにして、2.2, 2.3 の日本語リソースやパッケージが作られていきました。
2007年9月ころ、チーム編成に変化がありました。このころまで、アナウンスや広範な議論は(現在では存在しない)WordPress Japan のフォーラムで行われていました。その記録は残っていないので記憶に頼りますが、開設の経緯からこれまでリポジトリにコミットできたのは tai さん一人のみだったのを、このあとチーム体制にしていきたい、というような議論がたしかそのフォーラムでありました。そこで現在も活躍している有名な方々も加わり、ほぼ現在と同じチームができました。チームの連絡も現在の Google グループに移りました。こうして現在も続く、リリースごとに担当者を決めていく体制ができていきました。
2.3.1 の ja.po までは冒頭のコメントに翻訳チームとして個人の名前が列挙されていましたが、2.3.2 の ja.po からは「WordPress 日本語版作成チーム」と、すっきりした表記になりました。
WordPress.org のローカルサイト ja.WordPress.org が立ち上がったのもこのころだったかと思います。WordPress 2.3 リリースのアナウンスはこちらで行われています。その後フォーラムも立ち上がり、もうひとつの日本語版である WordPress ME に代わってこちらのほうが普及していくことになります。そして 2008年3月、WordPress ME は配布を停止してサイトは閉じられました。
作業環境の変化
WordPress は世界的にも普及し、本家のほうでも国際化の環境の整備が進みました。翻訳に関わる議論は以前はメーリングリストでしたが、現在は WordPress Polyglots というサイトで行われています。私が日本語版リリースの担当だった 3.0 のころ、GlotPress という仕組みが導入されました。これまで svn リポジトリを中心とした翻訳作業が、ウェブ・インターフェースの作業になりました。これで、限られた人しか関われなかった作業が、誰でも、たった一行だけでも気軽に参加できるものになりました。2010年のことです。
gettext (ja.po など)でカバーできず、翻訳文を直接埋め込まなければならないファイルは減り続け、ほとんどの翻訳は GlotPress でできるようになりました。2013年5月現在、直接翻訳するのは wp-config-sample.php のコメント文と readme.html だけです。
ja.po のコメントを見てきましたが、2012年の 3.4 の ja.po からは、とうとう日本語作成チームの案内も消えました。GlotPress の出力をそのまま利用するようになったからです。
これから
今年また日本語版リリースを担当しています。もうすぐ出るであろう 3.6 です。
私が日本語版に関わるようになってから6年になります。英語が得意なわけでもないので、もっぱら日本語に力点を置いて、それに翻訳そのものより周辺のこと(スタイルのこととか作業手順のこととか)を微力ながらやってきました。これからチームに参加される方のためにも、もう少しきちんと形にして残したいと思っているところです。