2018年12月に WordPress 5.0 がリリースされ、それに含まれるデフォルトテーマは Twenty Nineteen という新しいものになりました。
WordPress 5.0 のリリース告知 に、Twenty Nineteen の特長として次の点が挙げられています[1]。
Simple, type-driven layout
Featuring ample whitespace, and modern sans-serif headlines paired with classic serif body text, Twenty Nineteen is built to be beautiful on the go. It uses system fonts to increase loading speed. No more long waits on slow networks!
WordPress 5.0 “Bebo”
この部分が日本語では
シンプルなタイポグラフィ主導のレイアウト
たっぷりとった余白と、モダンなゴシック体の見出し、クラシックな明朝の本文テキストの組み合わせが特色の Twenty Nineteen は、出先でも美しくあるために造られました。システムフォントを使用して、読み込みスピードを向上させました。もう、遅いネットワークで長時間待つ必要はありません !
WordPress 5.0 “ベボ”
と、「ゴシック体」「明朝」と訳されています。
バージョン 1.0 での日本語への対応
確かに、元々の Twenty Nineteen では sans-serif と serif を使い分けるようにスタイルシートで設定されています。しかし WordPress 5.0 の最初のリリース時点 (Twenty Nineteen バージョン 1.0) では、日本語 (など非ラテン文字言語) の場合の議論が十分に間に合わず、非常に乱暴な対処がなされました。スタイルシート style.css
を見ると、
/* Japanese */ html[lang="ja"] .site * { font-family: -apple-system, BlinkMacSystemFont, "Hiragino Sans", Meiryo, "Helvetica Neue", sans-serif !important; }
と、すべてのタグに同一の sans-serif 系の font-family が指定されています (しかも !important
付きで)。これはもう本文テキストと見出しが同じどころか、<pre>
も <code>
も monospace ですらなく何もかもが一緒くたという指定です。はっきり言って「看板に偽りあり
」です。
バージョン 1.3 での改善点
さすがに全称セレクターと !important
だと思わぬところにも影響が及ぶということもあり、最初のリリースには間に合いませんでしたが、WordPress 5.1 とともに配布される Twenty Nineteen (バージョンはおそらく 1.3) では、根本的な対応がなされることになりました。
Twenty Nineteen のスタイルシートは Sass で開発されています。@each
と@mixin
を使うことで既存部分の変更は最小限で書き足す部分もほんのわずかで済み、さらに @extend
(と placeholder) を使って、生成される style.css
のサイズ増加をできるだけ抑えるという変更案が出されました。
これにより Twenty Nineteen バージョン 1.3 では、元々あった font-family の一つ一つに対して、非ラテン文字言語ごとのバリエーションが設定されました。1.0 とは対極の、実に丁寧な対処です。
改善されなかった点
スタイルシート内にたくさんある font-family に埋め込む値は、sass/variables-site/_fonts.scss
に記述されているのですが、元々、ラテン文字言語に対して
$font__body: "NonBreakingSpaceOverride", "Hoefler Text", "Baskerville Old Face", Garamond, "Times New Roman", serif; $font__heading: -apple-system, BlinkMacSystemFont, "Segoe UI", "Roboto", "Oxygen", "Ubuntu", "Cantarell", "Fira Sans", "Droid Sans" $font__code: Menlo, monaco, Consolas, Lucida Console, monospace; $font__pre: "Courier 10 Pitch", Courier, monospace;
のように、4つに分けて設定されています。非ラテン文字言語に対しては、下2つ ($font__code, $font__pre) のそれぞれは手を付けずそのままとなったのはいいとして、上2つ ($font__body, $font__heading) は区別せずに合わせて同じフォントとされてしまいました。
私は、本文用と見出し用のそれぞれ別のフォントが設定できてしかるべきと考えています (各言語ごとに合意を形成する段階で、本文用と見出し用のフォントを同一にするという結果に達すればそれはそれでいいことです)。しかしこの時点では、既にリリースしたものからの大幅な変更は避けたい、非ラテン文字言語での serif 系と sans-serif 系の使い分けの合意はない、まとめられるものはまとめようということで、別々の実装は退けられました。
もうひとつの問題は、style.css
のサイズがかなり大きくなってしまうことです。ラテン文字言語しか使わない人たちにとっては無用の記述が大量に追加されたことになります。今回の追加部分は別ファイルにして、不要な人たちは読み込まずにすむようにできればよりいいでしょう。
WordPress のデフォルトテーマは、そのまま使われるだけでなく、「標準」としてしばしば参照されます。非ラテン文字言語フォントの扱いの例としてきちんとした形に残してほしかったのですが、リリース時期の制約などもあってそれが叶いませんでした。次の機会には何とかしてほしいものです。GitHub でのやりとり (それに、それが回送された Trac でのやりとり) はそのうち埋もれて忘れられそうなので、こうしてここにメモしておくことにしました。
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