WordCamp Kansai 2014 に行ってきました。2日め“コントリビューターデイ”、プラグイン・テーマ翻訳の世話役だったのですが、可搬 PC は持っていないし、子連れだし、遠方まで帰るために途中で抜けなければならないし、さらに、「Mac/Win で Poedit というアプリケーションを使う」というのが最も一般的と思われるのに自分では使っていないため[1]に操作方法を即答できない……、という幾重もの役立たずぶりですみませんでした。こどもの相手やら何やら、こちらのほうがお世話になりっぱなしで、ありがとうございました。
そういう中で質問を受けたことを、今さらながらここに書いておこうと思います。
翻訳作業のステップ
WordPress のプラグインやテーマの翻訳をやってみようという記事はあちこちにたくさんあります。ここでは細かく書きませんので、それらを参照してみてください。「POT ファイルとは何か」「PO ファイルとは何か」「それらはどこにあるか」などは既に知っているという前提で進めます。
おさらいです。WordPress のプラグインやテーマの翻訳作業のステップは
- プラグインやテーマのプログラムの中の翻訳されるべきメッセージに __() や _e() などのマークを付ける
- マークされた文字列を抽出して POT ファイルと呼ばれる、翻訳者にとって原本となるものを作成する
- POT ファイルを元に、メッセージをそれぞれの言語に翻訳した PO ファイル を準備する
- PO ファイルを編集する (これがほんとうの翻訳作業)
です。作業のスタート地点が後ろに近いほど、とっかかりやすいです[2]。
最も始めやすい状態: ステップ4から
たくさんある記事のひとつ、Nao さんの「2014年版: WordPress プラグイン・テーマの翻訳を始めてみよう」を見てみます。
その記事にありますように、最も手軽に始められるのが、既に全部または一部翻訳がなされているものに対して、誤訳を修正するとか、別の訳語にするとか、訳の抜けている部分を補う、というものです。これなら最初のハードルがぐっと低く、ともかく「やってみよう」という気になれます。
Poedit なら、書き換えたい PO ファイルを開き、当該箇所を修正・加筆するだけです。
その次に楽な状態: ステップ3から
プラグインやテーマそのものは翻訳可能 (POT ファイルが用意されている) だが日本語訳 (name-ja.po) がない状態というのが、その次にとっつきやすい状態です。
公式ディレクトリに登録されているプラグインやテーマなら「translation-ready」というタグが付けられているでしょう。ここでいうステップ1や2の処理が既にされているという意味です。
Poedit なら、「ファイル」-「POT ファイルを元に新しいカタログを作成…」で、「言語」に ja を指定して適切な名前 (name-ja.po の形) で保存します。
コマンドラインを使えるなら Poedit を使わずに、
msginit -i name.pot -o name-ja.po -l ja
です。意味はなんとなくわかりますね。
この時点で、翻訳率0% の日本語翻訳ファイル name-ja.po ができます。
ステップ3をステップ4に
「0%」……嫌な響きですね。これだけでやる気が削がれてしまいます。なので、過去の資産から使えるものは少しでも流用します。
たとえばテーマの翻訳をしようとしているとします。その最初に、既存の、たとえばデフォルトテーマの twentyfourteen の翻訳を取り込んでしまおうというのです。
もしステップ3をコマンドラインでできたようなら、これまたコマンドラインで
msgmerge -o name-ja.po -C wordpress/wp-content/languages/themes/twentyfourteen-ja.po name-ja.po name.pot
のように、msgmerge
を使います。-C
で参考とする PO ファイルを指定します。-C
はひとつのコマンドラインの中に何度でも指定できるので、WordPress 本体の ja.po や admin-ja.po も追加するといいかもしれません。
Poedit ではこれに相当する操作が簡単にできないようです。そこでステップ3の代わりに、次のようにします。name-ja.po がまだ存在しない状態で、参考とする PO ファイル (たとえば twentyfourteen-ja.po) を name-ja.po という名前でコピーします。これを Poedit で開き、「カタログ」-「POTファイルでカタログを更新…」します。
すると、英文が合致する分の翻訳がそのまま取り込まれます[3]。プラグインでは参考にする似たものを見つけてくることが難しいかもしれませんが、テーマの場合は、デフォルトのテーマを参考にしてうまくいけば80%ほども翻訳済みにしてしまうことができます。
これで、スタート地点をステップ3からではなく、ステップ4からにすることができます。
翻訳メモリ
Poedit には翻訳メモリという機能があります。データベースに登録しておけば、それを自動的に参照して、英文が合致する分を埋めてくれます。まずは WordPress 本体の ja.mo や admin-ja.mo それにデフォルトのテーマの twentyfourteen-ja.mo を登録しておきましょう。
これによってもスタート地点をステップ3からではなく、ステップ4からにすることができます。
前節の方法と翻訳メモリの方法は同時に使うこともできますので、積極的に翻訳メモリを使うのがいいでしょう。
といっても私自身が Poedit 自体(ということは翻訳メモリも)使っていませんので詳しく書けません。かなり古い記事ですが Tai さんの「poEditの翻訳メモリ機能を使う」や Miyoshi さんの「poEdit で翻訳ファイルを作る 」の「翻訳メモリを活用する」の節などを参考にしてください。
手抜きの効果
「手抜き」というと負のイメージの言葉ですが、ここではまったくそういうことはありません。むしろ用語の統一という点でも、積極的にここに書いた方法をとるべきだと思います。
そこで、最初掲げたステップを修正して、
- プラグインやテーマのプログラムの中の翻訳されるべきメッセージに __() や _e() などのマークを付けておく
- マークされた文字列を抽出して POT ファイルと呼ばれる、翻訳者にとって原本となるものを作成
- POT ファイルを元に、メッセージをそれぞれの言語に翻訳した PO ファイル を作る
- 過去の資産を参照して自動的に、できるだけ翻訳を埋める
- PO ファイルを編集する (これがほんとうの翻訳作業)
の赤い字の項目を必ず実行するように意識することを強くお奨めします。
ざっと検索してみた Poedit の使い方、WordPress の翻訳や WordPress 翻訳祭りのような WordBench などでの解説でも「POT ファイルから PO ファイルを作りましょう。空っぽの ja.po ができましたね。さあ翻訳を始めましょう」と、このあいだのステップが飛ばされているように思います。
いまからやろうとしている翻訳は、単語レベルでは既に誰かがやっているかもしれません。WordCamp Kansai 2014 のキーワードは「Share 分かちあい」でしたね。share できるものは share して、抜ける手はなるべく抜いて、その余力は別のところで活かしましょう。
これくらいの下調べは前もってやっておくべきでした。すみません。今後の各地のイベントや、あるいは個人で、翻訳やってみようかなというときには、前に書いた「WordPress 翻訳祭り—今さら注意してもらえない「日本語」について 」と併せて参考にしてもらえればと思います。
- ふだんは Debian 上の Emacs の po-mode で作業しています。↑
- このあと、それを開発者に送るとか、開発者の側では送られてきたものを最新版に合わせてからパッケージに同梱するとかの作業もありますが、ここでは省略します。それらとステップ2については以前「プラグインやテーマの国際化を少し楽に」に書きました。↑
- 合致しなかった部分を掃除するには Poedit では「カタログ」-「Purge Deleted Translations」です。↑
[…] WordPress プラグインやテーマの翻訳でうまく手を抜く(いい意味で)-半月記 […]