消しゴムを使うな

小学校3年生のスウちゃん (仮名) は夏休みに入りました。

1学期のあいだ、テストがいくつもありました。宿題のプリントもそれはそれはたくさんありました。どれも採点されて返されます。スウちゃんはどうしてもうっかりミスが多く、なかなか100点が取れません。そういうたくさんのプリントやテストを持ち帰って見せてくれるのですが……。

間違えたところも解答が消しゴムで消されて書き直され、丸が付けられています。先生がそのようにしているのです。「ぜんぶ丸になるまで」という指導のようです。担任の先生は毎年変わっているのですが、これまでのどの先生もこのやり方でした。流行りというか、そういう指導の指導でもあるのでしょうか。

プリントを持ち帰ったスウちゃんに「ここ、はじめはどういうふうに間違ったの?」と聞いても「わからない。忘れた」というのがほとんどで、何をどのように間違えたかがわからないのです。この「間違った答を消しゴムで消して丸になるまで」の効果がさっぱりわかりません。

授業中にとるノートも、消しゴムを使ってきれいに仕上げることが徹底して指導されているようです。まあ、まだ小学校低学年ですから「ノートの書き方」そのものを教えなければならないこともわかるのですが。

しかし子どもは、短絡的にしか理解していません。

先日、スウちゃんは宿題の漢字練習をやっていました。ひとつの漢字を1行びっしり書き、漢字ドリル2ページ分、つまり20個ほどの漢字を練習するというものです。そのやり方自体がいいかどうかはここではとやかく言わないことにします。

スウちゃんは最後近くまでいったところで、そのびっしり書いたほとんど丸2ページ分を消しゴムで消し始めました。私がびっくりして「どうしたの?」と聞くと、3文字めか4文字めの漢字を飛ばしていたことに気がついたのでやり直すというのです。「いや、もういいよ。飛ばしていた字を最後に1行やればいいよ」と私が言っても、「そんなんじゃだめなんだよ。先生がちゃんとぜんぶ消して書き直しなさいって言うもん」と、泣きそうになりながら頑なに消しゴムをかけ続けます。時間はものすごく無駄だし消しゴムのかすもひどいことになるし、漢字練習の意味も何もありません。それでも先生の言うことは絶対のようです。本当に先生がここまでのことを要求しているかどうかは不明ですが、普段のノートやプリントの指導からして、子どもがこのように理解していても不思議はありません。

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スウちゃんのことを離れて、自分のことを書きます。

もう何十年も前、私が子どもだったころ、父にノートの使い方を教わったことを思い出しました。父は高校の教師でしたから、多くの経験からそれを確立していたのだと思います。

美しさにこだわらない
本でもないし人に見せるものでもない。自分のためのもの。
詰め込みすぎない
とはいえギュウギュウに書いても、自分ですら読み返せない。訂正 (後述のように消しゴムはなるべく使わない) したりコメントを追記したりできる余裕を持たせる。
2本のラインを引く
ノートのページを番号欄、本体、備考欄に3分割して使う。これをうまく説明する参考にできるものはないかと検索してみたら、「東大合格生が小学生だったときのノート」というものを見つけました。「約束5」がまさに父が教えてくれたことそのものです。
消しゴムはなるべく使わない
途中式、間違いにも意味がある。備考欄を活用すれば消しゴムはあまり使わずに済むはず。
定規はなるべく使わない
定規を使わずに直線をきれいに描く練習はあらかじめしておく。分数や筆算のときはもちろん、数直線やグラフのときにも不要。

先ほどの「東大合格生が小学生だったときのノート」の紹介PDFを見てみると、ここに挙げたほかの項目も実にそっくりという気がします。先駆けること数十年、わが父ながら感服します。

私が父に教わったのは小学校の高学年のころだったと記憶しています。自分でも非常に効果的だと実感したので、その後の中学・高校もしっかり踏襲していました。東大にこそ進まなかったけれどそれなりの成果にもつながったのだろうと、いま振り返ってみても思います。

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スウちゃんはいま夏休みの宿題 (ドリル) に取り組んでいます。採点は親がやることになっています。やっぱりうっかりミスが多いスウちゃんに「間違ったところは消さないで、その脇にもう一度考え直してから答を書いてごらん」と言って採点したものを渡しても、もう染み込んでしまった習慣で、見直しもそこそこにまず最初に消しゴムで消してしまうのでした。先生の威厳と信頼を損ねないように気をつけながら、なんとかこの悪癖を止めさせたいものです。

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