y の増加量は長さの次元を持つ。x の増加量は速さの次元を持つ。問題文では「x が5から7まで変化するとき」と、あたかも無次元量のような表記になっているが、問題文前半から x、y がそれぞれ速さ、長さの次元であることは明らかである。そもそも次元の異なる2つの物理量の倍率を問うこと自体がナンセンスである。たとえるならば「5 kg は 1 m の何倍か」という表現と同等であり、意味をなしていない。
出題者は「x の増加量に対する y の増加量はいくらか」と問うべきところを、単なる日本語の間違いで「y の増加量は x の増加量の何倍か」と書いてしまったのだろうか。それを指摘することは揚げ足取りに過ぎないのだろうか。
x が [m/s] で表される値ならば、「x の増加量」もまた [m/s] で表される値である。同様に、「y の増加量」も [m] で表される値である。単位の異なる2つの値を「◯倍」と表現することは、日本語ではあり得ない。
もし問題文が「x の増加量に対する y の増加量はいくらか。」または「変化の割合はいくらか。」であれば、変化の割合は有次元でもかまわないので「3/2」と解答できるが、問いが「何倍か」で解答用紙の欄に「倍」と印刷されて限定されているのであれば、答えるべき数値は無次元量でなければならず、この問題の場合は解答不能である。
入試問題では明らかに「速さ毎秒 x m、距離 y m」と記しているので「y の増加量は x の増加量の何倍」という表現は誤りである。それに対して教科書では、ページの上段の「Q」と下段の「例1」のつながりをどの程度と見るかで判断は分かれるだろう。「例1」と区切っていることから、ここは具体的事象から切り離して数学的記述のみと見ることもできる。そう見れば、「y の増加量は x の増加量の5倍」という表現も一概に誤りとは言えない。
しかし、上段にある式をそのまま使っているこのページの構成からして、大半の読者は、上段の具体的事象について述べていると理解するのではないか。実際、入試問題作成者までがこの表現に影響されて、「速さ毎秒 x m、距離 y m」のように具体的な単位で表される値にまで「何倍」を用いてしまったではないか。
新版の教科書
ちなみに2023年時点の現行の教科書(令和2年検定済「新しい数学2」東京書籍)では、具体的事象が消え、数学的な記述のみに変更になっている。確かにこのページだけ見れば「y の増加量は x の増加量の◯倍」という表現も誤りとは言えない。
しかし、このページ内での矛盾はなくなり旧版よりましになったとは言え、前後には具体的事象の例題・練習問題が多くある。また、1次関数は特に日常的事象や他教科(特に理科)の内容とも密接に関わる。x や y が具体的な単位で表される値になれば意味をなさない「y の増加量は x の増加量の◯倍」という表現は避けるべきであろう。
「変化の割合」に誘導するステップとして、「y の増加量は x の増加量の◯倍」の表現を置くことが生徒にとって助けになるとの判断があったのかもしれない。しかし、検定済7点の教科書を見比べてみると、これを抜きにしても変化の割合を丁寧に教えているものも存在する。
生徒だけでなく教師や入試問題作成者にすら上述のような誤解を与える弊害があることを考慮すると、この節に「y の増加量は x の増加量の◯倍」という表現は用いないほうが望ましい。
教科書出版社の回答
そこで東京書籍に問い合わせてみたところ、次のような回答があった。
数学の世界で関数を考察しておりますので、「y の増加量は x の増加量の◯倍」の表現は問題ないと存じます。
これらを「教育の段階として計算の過程だけを取り上げて教えることは当然のことだとは考える」としながらも、「が,その結果,たとえば 例: 3 m と 10 cm を加えて 13 5 m^2 と 3 m を加えて 8 m になってしまうようなことに違和感を感じないのは大きな問題である。」と述べ、「現象を抽象的に見て数値として表現するという,数概念の根幹が分かっていない」と断じている。
上に挙げた代替表現は、日常の具体的事象と結びつけても何ら困らない。「時間 x が 2倍,3倍,4倍,…になると 温度 y は」「時間 x がいくつ増えると 温度 y は」のように。ところが「温度 y の増加量は 時間 x の増加量の◯倍」は日本語として破綻している。数学的表現の限りでは問題ないことは私も理解するが、日常の具体的事象と結びつけたとたんに破綻する表現をあえて持ち込むことは特に利点がない以上、不要と考える。
もうひとつは、別の教科書出版社。こちらの教科書の当該箇所の記述は平成27検定版と令和2検定版のどちらも、東京書籍令和2検定版とほぼ同じで、具体的事象の例示はなく数学的記述のみで説明が進み、その中に「y の増加量は x の増加量の何倍」の表現がある(数学的記述のみの限りでは問題ないことは私も理解する)。そのためか、問い合わせの真意を汲み取ってもらえなかったところがある。
中学数学を教える側は一生そこに留まっていて困らないのかもしれないが、生徒たちはどんどん先にも横にも進まなければならない。ここでの認識にとらわれていたら、次元解析や無次元化などまるで理解できなくなるのではないか。理解するためには中学で教わったことを捨てて発想を転換しなければならない。なぜ生徒たちがそんなことを強いられなければならないのか。中学数学のほうが「単位を外に付ければ x や y は無次元」のような、世間一般では通用しない珍妙な概念を捨てればいいのでないだろうか。
さて、そのように手書きで書き込む際、マウス(と言っても自分はトラックボールだが)ではなかなか上手く書くことができないので、ペンタブレットを用意することにした。価格が手頃で Linux での実績がありそうな XPPen の Deco Fun XS を購入。お絵描きには小さすぎるかもしれないが、ここでの目的にはちょうどいい。
多くの言語で使われることが想定される WordPress に、日本語の一つのスタイルである「全角アキ」を実装するよう求めるのは現実的ではない。利用者(サイト運営者)が style.css なりカスタマイズの「追加CSS」で対応するしかないだろうと思う。もっとも英語使用者にも似たような要望を持つ人はいるようで、たとえば英語のフォーラムにも Indent first line of most paragraphs, not all のトピックがあるし、そこからたどってみると #37462 の要望も出されている。